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福井地方裁判所 昭和32年(ワ)45号 判決 1963年4月26日

原告 九頭竜川中部漁業協同組合

被告 国

訴訟代理人 川本権祐 外五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用ば原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立。

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金一〇、〇〇〇、〇〇〇円および、これに対する昭和三二年三月一九日から右支払ずみに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め

被控訴代理人は、本案に対する申立として主文第一、二項同旨の判決を求めた。

第二、当事者双方の主張。

一、原告訴訟代理人は、つぎのとおり述べた。

(請求原因)

(1)  原告は、昭和四年八月三一日附の福井県指令水第一五四六号をもつて発足して爾来漁業組合、漁業会と称した時代を経て、現在の漁業協同組合となつた。

(2)  原告は、昭和六年五月一四日附でもつて、農林大臣町田忠治から、免許番号第五一八四号により、別紙第一漁場図のとおりの漁場でもつて、あゆ小漁業などの専用漁業権を取得した。

しかし、その後の漁業法の改正により、原告の右専用漁業権は昭和二六年九月一日に、福井県知事小幡治和から内共第一号をもつて、左記のような内容の共同漁業権に変更されたうえ免許され原告は、同日、右共同漁業権についての登録を完了した。

(イ) 漁場の位置および区域は、別紙第二漁場図--九頭竜川本流の上志比村市荒川発電所の鉄管の見とおし線より右本流の川口にいたるまでおよび右区間の九頭竜川の支流ならびに派流--のとおりである。

(ロ) 漁業の種類、漁業の名称、漁獲物の種類、漁業の時期はつぎのとおりである。

<表 省略>

(ハ) 存続期間は昭和二六年九月一日から昭和三六年八月三一日までである。

(ニ) 免許制根(条件)はない。

(3) 被告は、九頭竜川の中流および、下流の沼岸地元農民らの上申により、土地改良法にもとづくところの国営土地改良事業として、昭和二二年度から右河川の両岸における農業用水路の各取水設備と、幹線水路の新設による取水の安全と配水の合理化を図ることを目的とした九頭竜川農業水利事業の施工を決定した。そして、右事業計画の大綱というのは、在来の農業用水であつた芝原、本田、十六ケ、十郷大堰所、御陵、河合春近の六個の取入口を全廃したうえで、あらたに京福電気鉄道株式会社永平寺線の、九頭竜川鉄橋の下流附近でもつて九頭竜川の本流を締切つたうえで可動性の堰堤--以下本件堰堤という。--を築造し、堰堤の直ぐ上流部分に接した両岸に取水口を設け、各別に一定の比率による取水をおこなう幹線水路を新設し、既存の用水路に連絡せしめたうえ配水をおこなおうとするものであつた。そして右工事計画にしたがつて、被告は、昭和二二年から昭和二四年度まで両岸の幹線水路の区間工事に専念し、また昭和二四年度には頭首工にも着工して、昭和三〇年三月にようやく右事業を完成した。

(4)  原告は、前敍(2) のような内容の漁業権--以下本件漁業権という。--を有するものであるところ、被告の前敍(3) の事業施行によつて、つぎに述べるような損害を蒙つた。

(イ) まず、工事施行中の損害。

九頭竜川は全長が一一〇粁におよぶ大河川であるところから従来豊富な魚族を養つてきた。そのため右河川は沿岸漁民の生活の基盤でもあつた。そして前寂頭首工築造工事--以下本件堰堤工事という。--の施行せられた通称鳴鹿地籍は、右河川の河口から上流へおよそ三分の一の地点にある。およそ、河川の魚族はそのほとんどが、季節的に餌斜を求めて湖上、または降下を繰返しながら、成長、および、繁殖をするものである。これを本件漁業権に含まれている魚族についてみるとき、特に清流を好む鮎などは、汚濁水に対する抵抗力が弱いために、本件堰堤工事施行による多量の「セメントダス」の河中流出によつて清流を好むそれらの魚族を悩ましたというだけではなく、「セメントダス」は河床に繁茂して魚族の餌料となつている珪藻類をも覆没してしまつたことから、本件堰堤工事は、魚族の成長を大いに妨げたのみならずさらに、吉田郡松岡町から福井市舟橋新地籍にいたる鮎の産卵場を撹乱して、その繁殖に重大な障碍を加えたものである。

(ロ) つぎに工事完成による損失。

つぎに述べるような事由によつて原告の漁業権の範囲内にある漁場における魚族の棲息尾数は、近年に至つて、年とともに減少し、従前に比べて漁場としての価値が低減してきている。

(A) 九頭竜川流域のなかでも前記鳴鹿地籍附近は、従前は、流速も適当であつたところから、本川でも屈指の漁場でありまた、本件堰堤が完成されるまでは、堰堤が築造された地点のすぐ上流と、すぐ下流の各一ケ所から本川に並行して旧五領ケ島村の北方沿いに、西へ二本の支流が流れ、右二支流は、五領ケ島村の西端附近でもつて木川と合流していた。この二支流は併せて全長が約六、五〇〇米にもなつており両者を通称「裏川」と呼んでいた。そしてその裏川の漁場としての価値は本川のそれよりも高かつたのであるが、堰堤完成の後は全く涸渇してしまい、裏川における原告の漁場は永久かつ完全に失われてしまつた。

(B) 本件堰堤には、幅員六米、全長四六米、勾配約一三という溢流階段式の魚道が一ケ所設けられている。しかし、この程度の魚道設備をもつてしては、堰堤の完成後に右堰堤が魚族の湖上と降下に与えるであろうところの障碍を除去したことにはならず、右の程度の魚道では全くの気休め的なものに過ぎないのである。したがつて、本件堰堤の築造が魚族の湖上と降下に著しい障碍を与えていることは明らかである。

(C)また、毎年一〇月頃になると、本件堰堤の可動水門かる九頭竜川下流へ向つて放水されるために、下流の水量が放水前に比して急激な増水となるのである。しかも、丁度その頃が産卵期にあたるため鮎の前記産卵場が撹乱されることになることから、天然産卵孵化に著しく悪い影響を与えてきている。

(5)  原告の漁業権に含まれている魚族は前敍(2) に明らかなとなり数種類にわたつているが--もつとも昭和二七年一〇月二七日漁業の種類などについて追加されたが--、本件損失補償請求においては、特に鮎漁における損害に限定したうえで、さらに、その損害についてもつぎのとおり昭和二六年以降の損害についてのみ主張する。そしてまた、損害額の算定基準も鮎の減獲数から考察する。

すなわち

(イ) 昭和二五年度までの数年間における原告組合員による鮎の総漁獲高の年間平均は三〇、〇〇〇貫であつた。そこでこれを昭和二六年から昭和二九年までの年間漁獲高と比較してみるとつぎのとおりである。

鮎の減獲情況は前敍のとおりではあるが、しかしながら、九頭竜川流域では、昭和二七年中には真名川水力発電工事の起工があり、さらに、昭和二八年中には、三国競艇の施行と、第一三号台風があつて、それらが本件堰堤工事とともに前敍漁獲高の減少に対する主な原因となつていると老えられる。そこでこれらの諸点を考慮するとき、堰堤工事による九頭竜川への悪水流水で鮎の生育に与えた悪影響による漁獲高の減少を全減少高の平均四割とみるのが相当であるから、前敍漁獲高減少による金二六、九〇〇、〇〇〇円の損害額のうち、堰堤工事の施工により蒙むつたところの損害額は合計金一六、一四〇、〇〇〇円ということになる。

さらに、

(ロ) 本件堰堤築造完成後の昭和三〇年度、および、昭和三一年度における原告組合員の総漁獲高は、いずれも年間二三、〇〇〇貫どまりであつて、これは前敍の年間平均漁獲高と比較するとき七、〇〇〇貫以上の漁獲高の減少となつている。

これを一貫当り金八〇〇円の割合でもつて計算するとき一年間の漁獲減少によるところの損害額は金五、六〇〇、〇〇〇円以上となる。

しかしながら、前敍のとおり漁獲減獲の原因となつているものが、本件堰堤の完成という単一なものだけでないということから、前敍同様に、堰堤築造完成の結果蒙つたところの損害を、漁獲減少高の平均四割と考えると、堰堤完成の結果蒙むるようになつた損害額は年間金三、三六〇、〇〇〇円以上ということになる。

(ハ) したがつて所謂「年次補償」における損失補償金額は前敍のとおり少くとも 年間金三、三六〇、〇〇〇円の損害額が基準となるので、その割合にしたがつて堰堤完成後の昭和三〇年九月一日(もつとも堰堤は同年の三月には完成をしている)から原告の漁業権の存続期間の終期である昭和三六年八月三日までの損害額は合計金二〇、一六〇、〇〇〇円となり、右損害額は原告組合が本件堰堤完成後漁業権の免許期間内に右堰堤に基因して蒙むつたところの損害である。

(6)  ところが、原告は訴外九頭竜川沿岸増殖振興会を経て被告から原告に対し昭和二五年から昭和二八年にかけて稚鮎放流費名目でもつて本件堰堤工事期間中の損失補償の一部として金四〇〇、〇〇〇円を受取つているから、これを前敍(5) (イ)の工事施行中の損害額金一六、一四〇、〇〇〇円から差引くと結局前寂(5) 伺(イ)の損害額は金一五、七四〇、〇〇〇円となる。

(7)  よつて、原告は本件堰堤工事施行中に蒙つた損害金一五、七四〇、〇〇〇円と、本件堰堤完成後に蒙むつたところの損害金二〇、一六〇、〇〇〇円の合計金三五、九〇〇、〇〇〇円のうち金一〇、〇〇〇、〇〇〇円を土地改良法第一二二条にもとづく損失補償として支払を求める。

二、被告訴訟代理人はつぎのとおり述べた。

原告の請求は、要するに、本件堰堤工事、ならびに、堰堤の築造によつて鮎の漁獲量が減少し、その結果損害を蒙むつたということを理由として、その損失補償を求めるというにある。

しかしながら、原告は漁業の自営をおこなつていないから漁獲高の増減によつて直接に損益の影響を蒙るものではない。なるほど、原告はその主張するような共同漁業権を所有しでいるけれども、他方原告の各組合員も原告とは別に、漁業自営の権利を有しているのである。したがつて、原告の漁業権は、いわゆる組合員各自の漁業経営をまつたからしめるための漁場管理権限を内容とした漁業権にすぎないものなのである。かりに、原告主張のような組合員が漁獲高の減少ということによつてその漁業経営上の利益を害されたものとしても、その場合の損失補償請求権は個々の組合員に発生し、また帰属するものであるから、原告が組合員の蒙つたところの損害をもつて、たゞちに、原告の損害としてその損失補償を求めることはできない。

原告主張の請求原因事実のうち、

(1)  原告が、その主張のような漁業協同組合であるということ、および、漁業権を所有すること、たゞしその範囲を除く。

(2)  被告が原告主張の請求原因(3) の事実のような工事を施行したということ。

(3)  本件堰堤の築造場所が原告主張のとおりであるということ。

はいずれもこれを認めるが、その余の主張事実はこれを否認する。

すなわち堰堤の築造、および、その工事が原告のいうように組合員の鮎漁に障碍を与え、そのために漁獲高の減少をきたしたとは思われないので、なんら原告に対し損失補償義務を負うものではない。これを詳述してみると、

本件堰堤は、もと地元水利組合によつて九頭竜川鳴鹿地籍附近に敷設されていた原始的な全川締切という用水堰に代り、近代的工法にしたがつて敷設されたところの用水堰である。したがつて、河川利用の態容は従来の用水堰の場合に比較してみると、遙かに合理的なものであるから従前の用水堰に比べてとくに原告主張のような漁撈行為を阻害したり、漁場価値を毀損したりしたということは到底考えられないことである。このことは、堰堤の上流水域を漁場としている原告以外の九頭竜川北部、および、南部の漁業協同組合がらは、堰提工事施行期間中および堰堤完成後においても、なんら格別の苦情が被告に対して申し出られていないということから推し測つてみても明らかに首肯できることである。さるに、一般的に--専門家筋においても同じことだが--鮎漁においては漁獲された鮎のうち天然鮎と、放流鮎との割合が、天然鮎一〇に対して放流鮎一の割合であるといわれてきているのである。しだがつて、もしも原告が主張するように本件堰堤の築造が鮎の溯上と降下に絶対的障害となつているとみるとき、海面から九頭竜川河口を経て溯上してくる天然鮎はほとんど溯上不可能となり、このことは本件堰堤から上流水域を漁場としている漁民の漁獲に対して壊滅的な打撃を与えることにならざるをえないのである。それにもかゝわらず、前敍のように今日に至るまで堰堤上流水域の漁民にそのような事態が生じていないということは、明らかに本件堰堤築造前と後の漁獲高とを比較するとき堰堤の築造が鮎の溯上と降下に障碍となつていないことを明らかにするものといえるのである。

たゞ本件堰堤工事のために若干河川に混濁などをきたしたことがあつたが、それとても魚族に害を及ぼすほどのものではなかつたし、また、堰堤工事の全期間を通じて本流を堰止めたということもなかつた。したがつて九頭竜川には常時魚族に必要な水量が保たれていたから、堰堤工事のため格別に鮎の溯上と降下に支障を与えたということもないのである。のみならず、被告は右工事期間中は原告からの監視員が工事現場へ自由に立入ることを許可するなどして、工事人夫などのいたずらによる鮎の溯上と降下の障碍防止ということにまで配慮してきたのである。かりに、工事期間中において若干鮎の溯上と降下に影響を与えるような行為があつたとしても、その被害はいたつて軽微なものであるから、後述する金八〇〇、〇〇〇円の工事施行に対する損失補償をもつて十分に償われているものである。

3(仮定抗弁)

かりに、原告主張のような事実によつて鮎の溯上と降下に対して若干の影響があつたとしても、被告は原告の前身にあたる九頭竜川中央漁業会--会長江川由太郎--など九頭竜川水域の漁業会から結成されたところの訴多九頭竜川沿岸増殖振興会との間において、昭和二四年一二月一日に本件堰堤築造にともなうところの損失補償の解決のため、右堰堤工事施行期間中被告は右九頭竜川沿岸増殖振興協会に対し、毎年金一五〇、〇〇〇円をその各年末に支払うこと。たゞし経済事情その他の変動を生じたときには、その都度双方協議のうえで右金額の修正をおこなうこと。などを内容としたところの協定を締結した。その際に、もし傘下の各漁業会の組合員から堰堤工事に対する損失補償につき異議、または、物議が生じたときは、右九頭竜川沿岸増殖振興協会が責任をもつてその問題を処理し、被告に対してはなんらの迷惑をもおよぼさず、さらに、前敍の損失補償のほかは今後一切の損失補償請求をおこなわない。という諒解があつた。

そのため、、被告は昭和二五年末に金一五〇、〇〇〇円を、昭和二六年七月に金一〇〇、〇〇〇円を、同年末に金二五〇、〇〇〇円を、昭和二七年末に金二五〇、〇〇〇円を、昭和二八年末に金五〇、〇〇〇円--以上合計金八〇〇、〇〇〇円--を右九頭竜川沿岸増殖振興協会に支払いこゝに約定の損失補償金の支払を完了したのである。したがつて被告としては右以上に原告に対して損失補償金支払義務は存しないのである。

第三、証拠

原告訴訟代理人は、甲第一号証の一、二、第二号証、第三号証、第四号証の一から三、第五号証、第六号証、第七号証の一、二、第八号証から第一〇号証を、各提出し、証人刀根清、同稲葉忠明、同北出武、同末永与作、同大谷繁、同立花兼松、同横井市左エ門、同竹一沢金次郎、同今沢東、同有里文雄、同郡司留吉、同松田五郎松、同岩本岩蔵、同浜田京進、同笠羽藤由、同西村孝、同斉藤広瀬、同西田強の各証言、および、原告組合代表者勝見厚の供述、ならびに、検証(第一、二回)と鑑定の各結果を援用し、乙号各証のうち、同第一号証から第一〇号証、第一四号証の各成立を認め、同第一一号証から第一三号証はいずれも不知、と述べ、

被告訴訟代理人は、乙第一号証から第一四号証を各提出し、証人稲葉忠明、同奥田一郎、同平田久三郎、同藤井嘉右エ門(第一、二回)同松田五郎丸、同酒井利雄、同福田重雄、同寺田隆治、同藤田俊二、同渡辺義一、同細川与一、同杉本猛、同松井佳一の各証言を援用し、甲号各証のうち、同第一号証から第五号証、第八号証から第一〇号証の各成立を認め、同第六号証第七号証の一、二はいずれも不知、と述べた。

理由

一、原告主張の請求原因事実のうち、(1) (3) 項の全部および(2) 項のうち原告がその主張のような内容の専用漁業権をかつて有したということ、そして、右専用漁業権が漁業法の改正により昭和二六年九月一日以降昭和三六年八月三一日までの共同漁業権と変更されたうえで免許されたということ--漁場の範囲は除く--は当事者間に争がない。

二、そこで、原告主張の共同漁業権の漁場の範囲について審究するに、成立に争のない甲第一号証の一、二、第二号証、第三号証、第四号証の一、二、と証人稲葉忠明、同刀根清、同松田五郎丸(第二回)の各証言ならびに、原告代表者勝見厚の供述を総合すると、原告の前身であつたもと九頭竜川中部漁業会が、別紙第一漁場図の漁場において、あゆ、さけ、ますの各漁業について専用漁業権を有していたところ、昭和二四年九月一九日に原告に組織変更をし、その結果原告は漁業会時代における漁業権をそのままの状態で承継した。しかるに、現行漁業法の施行にともなつて、それまで有していた専用漁業権は国からの買収処分をうけることになつたがその後、知事の諮問機関である内水面漁場管理委員会の公聴会、委員会からの知事への答申という所定の手続を経て、原告は福井県知事小幡治和から昭和二六年九月一日以降昭和三六年八月三一日までを期間としたところの別紙第二漁場図の範囲において、あゆ、こい、ふな、うなぎの各漁業の第五種共同漁業権の免許をうけたということ、そして、右免許における漁場の範囲には単に九頭竜川本流、および、支流とのみ記載されて、派流、十郷用水、河合春近用水、芝原用水が漁場範囲にあるということについての明示の記載がないけれども、漁場の範囲は専用漁業権の範囲と同一のものであつて、本流、支流の記載をもつて派流を含む全河川を指称するものであるということ、そして、右第五種共同漁業権について福井県受付昭和二六年九月一日福井県内共第一号をもつて登録されているということ。

がいずれも認められ、右認定に反する証拠はない。

前敍認定事実にもとづけば明らかに原告は福井県知事小幡治和から、原告主張のような漁場範囲において原告主張のような内容の第五種共同漁業権の免許をうけたものといわなければならない。

三、ところで、本件堰堤工事にともなう鮎の生産低下および原告の漁場の一部損失という原告主張の事実関係について審究すると

前記甲第四号証の一、二、成立に争のない甲第六号証、乙第九号証と証人北出武、同末永与作、同西村孝、同笠羽藤由、同浜田文進、同大谷繁、同岩本岩蔵、同横井市左衛門、同西田強の各証言、原告組合代表者勝見厚の供述、および検証(第一、二回)と鑑定の各結果を総合すると、

(1)  被告国は、昭和二二年度から国営土地改良事業の一環として 九頭竜川農業水利事業の起工を決定したことから、農林省は昭和二二年八月九頭竜川農業水利事業所を吉田郡志比村東古市に開設した。そして昭和二二年度同二三年度は、左岸右岸の各幹線水路工事を行い、昭和二四年度は頭首工の一部に着工して昭和三〇年四月その完成をもつて右全工事を完成したということ。そして、右事業計画というのは九頭竜川両岸の各用水の取入堰を廃して新たに京福電気鉄道株式会社永平寺線鉄橋直下流で九頭竜川を締切り、可動堰堤を築造したうえで、その上流の両岸に取水口を設け、在来の用水路に連絡せしめたうえで各用水へ分配給水をするというものであつたということ。したがつて、右可動堰堤の築造に際して工事のための悪水が九頭竜川に流水するということは、九頭竜川流域に生息する鮎の生育を害するものであるということは自明のことであつたけれども、近代工法に従うも若干の悪水の流水は阻止できず止むをえないものであつたということ。

(2)  原告の漁場範囲のうち、地元漁民の間で「裏川」またの名を「源平川」と称した旧五領ケ島村東端の鳴鹿地籍で九頭竜川本流から西方に分流する二本の支流(その西端は旧五領ケ息村を経て旧磯部村附近において九頭竜川本流と合流する。)が、本件堰堤が完成した昭和三〇年四月頃以降においては、九頭竜川本流に水量の豊富な僅少期間を除いては、涸渇状態にあつて漁場としての価値が全く消失されているということ。

(3)  そして、また、本件堰堤に築造されたところの溢流階段式の魚道一ケ所は、鮎の習性その他専門的な分野から検討するするとき、その位置、および魚道設計からみて鮎の溯上および降下に十分でなく、そのために本件堰堤の完成によつて船の溯上降下が堰堤築造前に比較するとき阻害せられているということがいえるということ。

(4)  原告組合員の鮎の年間漁獲高は、昭和二六年度が二六、〇〇〇貫以上、昭和二七年度が二三、〇〇〇貫以上、昭和二八年度が一五、〇〇〇貫以上、昭和二九年度が二一、〇〇〇貫以上、昭和三〇年度が二三、〇〇〇貫以上、昭和三一年度が一九、〇〇〇貫以上であつたということ。

(5)  原告組合員の昭和二八年度における鮎の減獲の主な原因が、台風第一三号による九頭竜川の河川の荒廃であり、昭和二九年度における増獲の主な原因が稚あゆ放流の積極化による結果であり、さらに昭和三一年度における鮎の減獲は稚あゆの入手難から放流あゆの減少に原因するということ。

がいずれも認められ、右認定に反する証拠はない。

前敍認定事実にもとづけば、本件堰堤の完成によつて、原告はその有する共同漁業権の漁場の一部を喪失したこと。本件堰堤工事期間中の悪水流水及び堰堤の築造完成によつて鮎の生育と鮎の溯上、降下がそれぞれ従前に比較するとき若干阻害されたために、鮎の生産が低下したものといわなければならない。

四、そこで損害額につき考察する。

(1)  原告は前敍認定の事実にも明らかなように、漁場の一部を喪失しているが、その主張事実から明かな如く原告の漁場喪失による損害額を組合員の鮎の減獲による損害額に求めているので組合員の鮎の漁獲減少の事実関係につき考察をすすめるに、

原告主張のとおり、原告組合員による昭和二三年までの数年間における鮎の年間漁獲高の平均水揚高が三〇、〇〇〇貫以上の実績を有していた事実は、本件全証拠によるもこれを認めることができないところであるから、原告のこの主張は採用できない。

かえつて、前記乙第九号証によると原告組合員による昭和二三年度におけるところの漁獲実績は、六、一〇〇貫であることが認められ、昭和二六年以降のどの年度の漁獲高より極めて僅少なもので、原告の主張する三〇、〇〇〇貫という平均水揚高にほど遠いものであるということが認められる。

(2)  前記各証言によれば、原告組合員は漁場の一部喪失と鮎の生産低下でその漁獲高が減少し、ために損害を蒙つたということは容易に窮知しうるところであるが、本件証拠資料によれば鮎の生産低下による減獲の誘因となる事由は枚挙にいとまなく、且つ、なに一つとしてそれ自体が決定的原因をなすものということができず、全証拠によるも被告が原告主張の事実関係のもとにおいて鮎の減獲にともなう損害につき如何程の損失補償義務あるか、明らかにすることがでない。

さらに、原告の損害額であるが、その主張する事実から組合員の鮎の漁獲による損害をもつて組合の損害とする事実関係が明確にされねばならないと解すべきところ、原告の全立証によつても右事実関係を認めることができない。

上来説示のとおりであるから、原告の本訴請求の正当性は未だただちにこれを肯認し難いものといわなければならない。

六、結論

敍上の次第であるからその余の判断をまつまでもなく原告の請求は、結局、失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主女のとおり判決する。

(裁判官 後藤文雄 服部正明 重対和男)

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